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2024-11-28 19:14:00

🕊️子どもの本の意義

🕊️子どもの本の意義



『ながくつしたのピッピ』『名探偵カッレくん』などの著者アストリッド・リンドグレーンの著作の中に『Never Violence!(暴力はぜったいだめ!)』という本があります。

 これは、1974年にドイツ書店協会平和賞を受賞した際の有名なスピーチを書籍化したものです。ドイツは戦後平和教育についてとても力を入れてきて、特に出版物に関しても、平和思想を育む手段として重要視してきました。

子どもの純真な冒険心や反抗心、また愛おしい自立心を鮮やかに描いた作家が、語ったのが平和についてでした。この原稿を見た主催者は内容の変更を求めたが、彼女は妥協せず、結果、原稿のままでスピーチが行われました。

 多くの議論を呼んだ内容はこのような言葉で語られます。

「平和について話すということは、存在しない何かについて話すということです。真の平和というものは、この地上には存在しませんし、私たちが明らかに達成できない目標という意味以上には多分存在してこなかったでしょう。人類は、地球に生まれてこのかた、暴力と戦いに明け暮れてきました…結局人類が絶えず暴力に訴えてきたということですから、本質に何か設計ミスがあるのではと問うべきではないでしょうか…」

平和の祭典で彼女は平和のスローガンに問いを投げかけます。そのうえで、彼女は、子どもの教育こそ、これからの平和をつくる核になる。小さな平和の芽とは、体罰を忘れた、愛情の表現によって育まれると説きます。

「子どもは親を尊敬すべきですが、親もまた自分の子どもを尊敬すべきです。…たがいに愛情に満ちた敬意をもてるようにと願っています」

 あれから50年が経ち、彼女の言葉の種はどれほどが成長できているでしょうか。ウクライナ、シリア、レバノン、この1年間に万以上の市民が殺されました。
兵器は日進月歩で進化し、手軽により殺傷能力が高い物が開発され実戦に使われます。人々を悲しませるのは、戦乱だけではありません。貧困による犯罪や、心の余裕を失った虐待、いじめの問題も、暴力という同じ問題の中で増加傾向にあります。

私たちは、まさに平和を問い直さなければなりません。

 平和とは?リンドグレーンが平和と説くのは、明るく溌溂としたイメージではありません。時に弱弱しく、迷い、悩み、それでも何かを信じて歩む道程を平和のイメージと位置付けます。

そして、人々の他への敬意や関心から始まるそれは、文学による善意の伝承を通して行われると語ります。子どもの心から暴力が解決の手段ではなく、様々な良きものを破壊する手放すべきものであるという認識は、物語の中で大人の声によって関節体験でより確かなものになります。

 私たちも世界平和というような大きな取り組みは無理でも、リンドグレーンの言葉を実践して、小さな平和の種を蒔いていくことは可能です。普通の我々が、彼女の言葉通り、悩んで弱々しくとも一歩を踏み出していく事は出来るはずです。

暴力というのは、様々な形で現れます。直接的な分かり易い暴力でなくても、愛おしい相手を支配しようとする暴力も存在します。迷走する大人が純粋な心に戻るきっかけを作ってくれるのも、やはり物語であり、優れた文学です。

私たちがまず手渡したい絵本とは、目の前の人が愛おしく思える気持ちが生まれる絵本。そして、次にそれは、地面に水が沁みこむように、子どもの心に静かに吸収される美しい絵や美しい言葉で描かれたものです。
そして何より心が素直に喜べるような間接体験ができる物語です。
人の善意が織り込まれた物語を親子で楽しむとき、学ぶのは子どもではなく、数々の経験から優しさを捨てそうになった大人の方です。
物語を共有し、気持ちを互いに敬意を払う小さな種をもう一度も思い出す。
そんな絵本に出会ってもらいたいと願います。

 

 



絵本屋 きんだあらんど
店主 蓮岡 修

一般社団法人 日本子どもの本研究会
『子どもの本棚』2024年12月号より転載

 

 

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